【第31号】『地産地消』地域の富は地域で循環
2013年、相場英雄氏が食品偽装問題を扱いベストセラーとなった小説『震える牛』のドラマを見ました。この作品は大企業の隠匿をテーマに圧倒的なリアリティーで迫る社会派サスペンスです。
印象的だったのはラストシーンで、『一体何時からだろう。経済が独り歩きして消費者が忘れさられて行ったのは。大きな商業施設に行って豊かなつもりでいた。でもそれによって人と人の触れ合いが薄れてきているのではないだろうか。信頼できる物を信頼できる相手から買う。そんな単純だが素晴らしい関係をもう一度見直す時が来たのかも知れない。』というセリフが流れました。この言葉に触発され、自身の原体験に思いを致しました。
私は、経営者仲間と世界で一番幸福な国を次々受賞する北欧視察に行ったことがあります。スウェーデンのストックホルムでは小学生高学年用の社会の教科書に驚かされました。ノルウェー産のサーモンは、小型の船で近海で漁をするので新鮮ですが値段は少し高い。カナダ産のサーモンは、大型船で北極海・北太平洋の漁で大量で安く提供できます。さて、あなたはどちらのサーモンを選びますか?あなたがノルウェー産を選べば、そのお金は漁師さん、運送屋さん、小売店さん、ノルウェーの中を循環し国内で働く人たちを豊かにします。あなたがカナダ産を選べば、カナダの人たちが喜びます。決してコスト、効率だけが判断基準ではありません。そのことが教科書のイラストで分りやすく示してありました。小学生の頃からこのような教育が行われ価値観が形成されていることに驚きました。
私たちは、ノルウェーの後、当時、国民幸福度世界一の国に選ばれたデンマークに渡り、先進的な福祉政策を実施しているスウェンボーという6万人ほどの小さな町を訪問しました。小さな町なのですが、中心市街の商店街に活気があります。スウェンボー市長に、『なぜこんなに商店街に活気があるのか』と
訊ねてみました。市長は、『日常の生活に必要なものは市民の皆さんが商店街を訪れ、商店街で買い物をしてもらうことが大事です。人々が自分の町を歩き、買い物をし、結果として商店で働く人たちを支え、町の自立性を高める。そのために大型スーパーは町の中心から10キロ以上に出店することをできないなど様々な施策を行っているのです。』と仰いました。
このように経済が独り歩きして消費者が忘れ去られてしまわないよう、幸せを定義し、その実現のために知恵を絞りいろいろな挑戦を行っている町、国を見たことが私の原体験の一つになっています。この体験から、地域の富は地域で循環する。(地産地消)駐車場から神戸を元気にするに繋がっています。もう一つ気づいたことがあります。地域を豊かにするために事業者の役割は確かに大きいのですがそれ以上に消費者、地域の生活者の価値判断が決定的です。商品・サービスを選ぶのは消費者、生活者だからです。単純だが素晴らしい関係を見直した方がいいのでは、改めてそう思います。
2021年10月吉日
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